しかしジャズとはいえ露骨な転調でもない限りは、コード進行を意識せずに1つのスケールだけで弾き切ってしまうことも可能であるのに、毎回「ドミナントコード」が登場する度に、その各々のコードに合う「オルタードテンション」を選択して演奏するのはとても面倒です。
しかし実は・・・そんな面倒な作業をすることもなく、ドミナントモーションにおいてシンプルでありながら、とても簡単に「オルタードテンション」を表現する方法があります。
そんな今回の主役が「オルタードP5thスケール」です。
🐢ダイアトニックコードの分類
「Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ」はサブドミナント -ドミナント -トニックの進行です。
マイナーⅡ-Ⅴ-Ⅰである「Ⅶ-Ⅲ-Ⅵ」においても同じ進行です。
それら合計6つのコードを「機能別」に分類したものがこちらです。
サブドミナント:Ⅱm7、Ⅶm7(b5)
ドミナント:Ⅴ7、Ⅲ7(b9)
トニック:ⅠM7、Ⅵm7
それをさらに「Key=C」で表すとこのようになります。
サブドミナント:Dm7、Bm7(b5)
ドミナント:G7、E7(b9)
トニック:CM7、Am7
コードは全部で6つ存在しますが、機能としては「3種類」しかありません。
今回はこのまま「Key=C」で話を進めていきます。
今回はこのまま「Key=C」で話を進めていきます。
🐢まずドミナントⅤ7で「ミクソリディアン♭9th」を弾く
Ⅴ7である「G7」を中心にCメジャースケールを弾くと「Gミクソリディアンスケール」です。
そのGミクソリディアンにオルタードテンションの「b9th」を加えるべく、♮9thの「A音」を半音下げて「Ab音」にすると「Gミクソリディアンb9thスケール」に変わります。
このスケールをⅡ-Ⅴ-Ⅰである「Dm7-G7-CM7」のドミナント「G7」の部分で弾くと、このような響きになります。(サブドミナントとトニックは事実上のCメジャースケールを使用)
ほんの少し「オルタードテンション」を使用するだけで、ジャズらしい雰囲気が一段と増します。
🐢次にドミナントⅢ7(♭9)で「オルタードP5th」を弾く
Ⅲ7(b9)である「E7(b9)」を中心にCメジャースケールを弾くと「Eフリジアンスケール」です。
そのEフリジアンにコードトーンの「♮3rd」を加えるべく、P4thの「A音」を半音下げて「G#音」にすると「EオルタードP5thスケール」に変わります。
そのEフリジアンにコードトーンの「♮3rd」を加えるべく、P4thの「A音」を半音下げて「G#音」にすると「EオルタードP5thスケール」に変わります。
このスケールには、以下の優れた特徴があります。
・E7(b9)の♮3rd「G#音」を得つつ、オルタードテンションの#9th「G音」も失わない
・通常のEオルタードスケールには含まれない、P5th「B音」が存在する
このスケールをⅦ-Ⅲ-Ⅵである「Bm7(b5)-E7(b9)-Am7」のドミナント「E7(b9)」の部分で弾くと、このような響きになります。(サブドミナントとトニックは事実上のCメジャースケールを使用)
・E7(b9)の♮3rd「G#音」を得つつ、オルタードテンションの#9th「G音」も失わない
・通常のEオルタードスケールには含まれない、P5th「B音」が存在する
このスケールをⅦ-Ⅲ-Ⅵである「Bm7(b5)-E7(b9)-Am7」のドミナント「E7(b9)」の部分で弾くと、このような響きになります。(サブドミナントとトニックは事実上のCメジャースケールを使用)
先程の「ミクソリディアンb9th」と同様に、こちらもジャズらしい雰囲気を醸しています。
🐢この2つのドミナントスケールの関係
先程までにご紹介した「Gミクソリディアンb9th」と「EオルタードP5th」という2つのスケール。お気づきかも知れませんが、実は弾き始める箇所が違うだけの「異名同音スケール」なのです。そして思い出して欲しいのが、以下のスケール群も各々が「異名同音スケール」であること。
サブドミナント:Dm7「Dドリアン」と Bm7(b5)「Bロクリアン」
トニック:CM7「Cイオニアン」と Am7「Aエオリアン」
「Ⅱm7-Ⅴ7-ⅠM7」=「Ⅶm7(b5)-Ⅲ7(b9)-Ⅵm7」
こちらの音源は、前半4小節の「Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ」と、後半4小節の「Ⅶ-Ⅲ-Ⅵ」において、実はまったくの「同じソロフレーズ」を演奏しています。つまりは伴奏だけが変化をしているわけです。
同じフレーズでありながら、ドミナント部分では各々のコードに合った「オルタードテンション」が表現されており、サブドミナントやトニックでも各コード機能に沿った演奏がされています。
ソロで意識すべきはコードネームよりも「コード機能」
Dm7とBm7(b5)は「同じサブドミナント」なので「同じフレーズ」が流用できて、G7とE7(b9)は「同じドミナント」なので「同じフレーズ」が流用できるわけです。もちろんトニックも同じ話。つまりソロを弾くときに意識すべきことは「コードネーム」よりも「コード機能」であり、それはすなわち、トニック、サブドミナント、ドミナントのいずれかを判断することであります。
🐢さらにシンプルに考える
冒頭でお伝えした通り、そもそも「Key=C」であるのなら「Cメジャースケール」だけでもソロは弾き切れますが、今回はドミナントでオルタードテンションを使用する趣旨が前提にありました。
とはいえ、1つのスケールだけで全体を弾き切る「スケール一発弾き」のお手軽さも魅力的です。そこで、その手法に近い形でドミナントにオルタードテンションを表現する方法をご紹介します。
Ⅱドリアンb5thスケール
先程ご紹介した「Gミクソリディアンb9th」と「EオルタードP5th」は異名同音スケールでしたが、同じスケールを「D音」から弾き始めた場合は「Dドリアンb5thスケール」になります。
これを踏まえて、以下の内容に着目します。
サブドミナント:Dm7とBm7(b5)で「Dドリアン」が使用できる
ドミナント:G7とE7(b9)で「Dドリアンb5th」が使用できる
つまり「サブドミナント →ドミナント」の進行は、ドリアンスケールの「完全5度(P5th)」の箇所を半音下げて「減5度(b5th)」に変えるだけで、いとも簡単に表現できてしまうわけです。
Dドリアンであれば、ドミナント部分でのみ「A音」を半音下げて「Ab音」に変えるだけです。
Ⅰイオニアンb13thスケール
さらにシンプルな考え方として、その同じスケールをKeyの主役である「C音」から弾き始めると「Cイオニアンb13thスケール」にもなります。
そしてご存知の通り、サブドミナント「Dドリアン」とトニック「Cイオニアン」も異名同音です。
つまり「Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ」や「Ⅶ-Ⅲ-Ⅵ」の全体を「Cイオニアン=Cメジャースケール」だけで弾きつつ、ドミナント部分で長6度(♮13th)「A音」を半音下げて、短6度(b13th)「Ab音」に変えてしまえば、それが結果的に「Ⅰイオニアンb13th」として、オルタードテンションを表現するわけです。
この2つのスケールの「考え方の違い」
これら2つを比較すると「Ⅱドリアンb5th」よりも「Ⅰイオニアンb13th」の方がシンプルで優れていると感じますが一概にそうも言えません。2つの大きな違いは「サブドミナントの意識」です。
今回のコード進行には転調部分が存在しないため、サブドミナントをさほど意識する必要はありませんが、多くのジャズスタンダード曲には転調が存在し、その部分の多くが「Ⅱ-Ⅴ/Ⅶ-Ⅲ」です。それはつまり、転調部分の各所が「独立したサブドミナント」として存在しているとも言えます。
その際には、コード譜で「Ⅱ-Ⅴ」を見た瞬間に「Ⅰイオニアン -Ⅰイオニアンb13th」として捉えるよりも、素直に「Ⅱドリアン -Ⅱドリアンb5th」として捉えた方が逆にシンプルであるわけです。
🐢転調部分がマイナーⅡ-Ⅴ「Ⅶ-Ⅲ」の場合
独立したサブドミナントがマイナーⅡ-Ⅴである「Ⅶm7(b5)-Ⅲ7(b9)」の場合に対して、ドミナントの部分で「オルタードP5th = 異名同音スケール」を使用する考え方を、2パターンご紹介します。
「Ⅱ-Ⅴ」と「Ⅶ-Ⅲ」は同じフレーズが流用できる表裏一体の関係です。その理屈等を踏まえて、コード譜で「Bm7(b5)-E7(b9)」を見た瞬間に「Dm7-G7」と同じ意味だと解釈してしまいます。
①Ⅶ-Ⅲで「Ⅱドリアン-Ⅱドリアンb5th」を弾く
因みに、Ⅶm7(b5)のルート音から数えた「短3度上」の位置にⅡm7のルート音があり、指板で見るとⅦのルート音から「同弦/3フレット上」や「1弦上/2フレット下」の位置がそれに当たります。
Ⅶ-Ⅲが「Bm7(b5)-E7(b9)」である場合は、Ⅶのルート「B音」の3フレット上に位置する「D音」を基準にして、サブドミナント -ドミナントを「Dドリアン - Dドリアンb5th」と弾くわけです。
②Ⅶ-Ⅲで「Ⅶロクリアン-Ⅶロクリアンbb7th」を弾く
ドミナント部分の「Ⅶロクリアンbb7th」は、前回の「ウォーキングベースで弾くマイナーⅡ-Ⅴ」でもお伝えした通り、「ⅢオルタードP5th」と同じ構成音で成り立つ異名同音スケールです。
この手法を「Ⅱドリアン-Ⅱドリアンb5th」と比較すると以下の長短があります。
メリット:コードネームを見てルート音から弾ける
デメリット:覚えるスケールの種類が増えてしまう
🐢「Ⅱ-Ⅴの簡略化」でもっとシンプルにも
以前の「細かいコード進行でウォーキングする方法」にてご紹介した、Ⅱ-Ⅴ部分を1コードとして捉えてしまう「Ⅱ-Ⅴの簡略化」を適用すると、さらにシンプルに弾くこともできます。
今回はオルタードテンションを使用すべく「Ⅱを省略」して「Ⅴを残存」させることにします。
先程の音源と同じく、前半4小節の「Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ」と、後半4小節の「Ⅶ-Ⅲ-Ⅵ」において、まったくの「同じソロフレーズ」を演奏しています。つまり、こちらでも伴奏だけが変化をしています。
そして、そのサブドミンナト -ドミナントの進行である「Dm7-G7」と「Bm7(b5)-E7(b9)」の小節において、それらの全体を「Gミクソリディアンb9th=EオルタードP5th」だけで演奏しています。異名同音である、Dドリアンb5th、Bロクリアンbb7th、Cイオニアンb13thと捉えても大丈夫です。
また、進行先であるトニックの「CM7」と「Am7」では、普通に「Cイオニアン=Aエオリアン」を使用しているだけなので、つまりは8小節間を通して「2つのスケール」のみで構成されています。
🐢マイナスワン(カラオケ)
こちらの音源は、今回使用したの8小節間を2回リピートしたマイナスワンです。上でご紹介した、サブドミナントとドミナントを一括りに「ドミナント」として扱う手法の他に、サブドミナントとトニックを「トニック」として扱う基礎的な手法があることもお忘れなく。
使用できる異名同音スケールのまとめ
■サブドミナント:Dm7、Bm7(b5)Dドリアン、Bロクリアン、Cイオニアン、Aエオリアン
■ドミナント:G7、E7(b9)
Gミクソb9th、EオルタードP5th、Dドリアンb5th、Bロクリアンbb7th、Cイオニアンb13th
■トニック:CM7、Am7
Cイオニアン、Aエオリアン、(Dドリアン、Bロクリアン)
🐢最後に
今回はドミナントモーションにおいて、とても簡単に「オルタードテンション」を表現する方法をご紹介しました。多くのスケール名が登場しましたが、コード機能別に1スケールずつ覚えるだけで充分です。「次回」はその「コード機能」を深く掘り下げて、複雑なコード進行に対応します。ジャズは「自由な音楽」なので、こんなのもアリ(🐜)じゃないですかね(❗❓)
\🐢SNSでシェア/
0 件のコメント:
コメントを投稿