そして残りのA7(b9)はセカンダリードミナントであり、細かく言うと “Key=DマイナーのトニックであるDm7にドミナントモーションをするドミナント” になります。つまりはA7(b9)の時にだけ、一時的にKey=CからKey=Dm(=F)に転調しているわけです。
そんな他KeyのコードであるA7(b9)ですが、実際のところKey=Cの中でも頻繁に使用されるコードであり、いわば血縁関係は無くとも “家族同然” の扱いです。例えるならDm7の配偶者でしょうか。
今回の登場人物は、この他人を1人だけ含み構成されるⅠ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴの「4人」です。そして彼らは、他の様々なコード進行にも変幻自在に対応できる、選ばれし逸材たちであることをご紹介します。
🐢Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ各コードの「コード機能」
冒頭でA7(b9)の話をしましたが、その存在によりDm7が微妙な立場に追いやられます。CM7やG7に対してはサブドミナントであるのに、A7(b9)に対してはトニックであるからです。しかし「Key=C」におけるⅠ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴに存在するⅡm7のDm7なので、やはりここはサブドミナントの立場で居てもらうのが無難です。そうすることで、この先の展開が分かりやすくなります。
では、完全に他KeyのコードであるA7(b9)を「Key=C」のⅠ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴの中でどう解釈するかです。A7(b9)の役割は、サブドミナントであるDm7に対してドミナントモーションをするコードでした。これを「コード機能」として独自な表現をすると、サブドミナントへのドミナントといえます。
それを踏まえて普通のドミナントであるG7を表現すると、トニックであるCM7に対してドミナントモーションをするコードなので、トニックへのドミナントといえます。
つまり、これがⅠ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴの「各コード機能」です。
ⅠM7:トニック
Ⅵ7(b9):サブドミナントへのドミナント
Ⅱm7:サブドミナント
Ⅴ7:トニックへのドミナント
メインキャストはこの「4人」だけ。
劇団イチロクニーゴー
実は、ジャズスタンダード曲などのコード進行に登場する多くのコード類は、露骨な転調が行われない限り、先程のⅠ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴの「4つのコード機能」に多少無理やりでも分類できます。
例えるなら、様々なコード進行の「脚本」を、毎回「4人の出演者」だけで回している劇団みたいなものです。そして時折出てくる「露骨な転調」は、その脚本ならではの「ゲスト出演者」が登場して対処します。ドリフターズのコントに女優やアイドルが出演する感じに近いかも知れません。
🐢「ドナ・リー」を4人だけで演じてみる
こちらのコード進行は、本来はKey=Abである「ドナ・リー」をKey=Cに移調したものです。
この16小節の各コードを、Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴの「4つのコード機能」だけで分類してみましょう。
Ⅱ7は「ブルース風味の演出コード」
こちらは、先程のコード進行の1-4小節目です。
1小節目のCM7は、説明するまでもなく「トニック」です。
2小節目のA7(b9)は、家族同然の「サブドミナントへのドミナント」ですね。
さて3-4小節目のD7ですが、これがもしDm7なら迷わずサブドミナントで決定です。しかも直前に存在するA7(b9)も「サブドミナントへの」ドミナントとして、D7にバトンを渡しています。
この明らかに「サブドミナントの立場」と思えるコードが、なぜか7thコードになっている現象を「ブルース風味の演出」と考えます。ブルースではトニックもサブドミナントも7thコードです。
またブルースでは、7thコード上で「マイナーペンタトニック」などを弾くことも多く、コードの構成音には長3度(♮3rd)が存在しているのに、ソロでは短3度(♭3rd)を使用したりとします。
つまり、このⅡm7がⅡ7となって発生した長3度(♮3rd)は、ブルース風味のアクセサリーみたいなもので、ソロを弾く側からすればⅡ7を単なる「サブドミナント」としてだけ捉えて、いつも通りにⅡm7を想定したⅡドリアンスケールを弾いてしまえば良いのです。
■結果として、1-4小節目のコード機能はこのように分類されました。
Ⅰ7は「Ⅵ7(b9)と表裏一体の関係」
次は5-8小節目です。
5-7小節目は “ Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ” なので、Dm7が「サブドミナント」、G7が「トニックへのドミナント」、CM7が「トニック」と、ここまでは単純明快です。
さて8小節目のC7ですが、次の9小節目に来るFM7に対してドミナントモーションをする位置付けとなるコードです。そしてFM7はⅣM7であり、Dm7と同じサブドミナントに分類されます。
つまりⅠ7であるC7も「サブドミナントへのドミナント」になるわけですが、今回の主役達である “Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ ” の中でその役割を担っている、Ⅵ7(b9)であるA7(b9)とは “ 表裏一体の関係 ” です。
前回の記事で “Gミクソリディアンb9thとEオルタードP5thは同じスケール” とお伝えしましたが、それは共に「トニックへのドミナント」であるⅤ7とⅢ7(b9)が表裏一体であることを意味します。
これを「サブドミナントへのドミナント」に置き換えると “Cミクソリディアンb9thとAオルタードP5thは同じスケール” という図式が成り立ち、Ⅰ7 と Ⅵ7(b9) も表裏一体の関係になるわけです。
■結果として、5-8小節目のコード機能はこのように分類されました。
「サブドミナントマイナー」と「Ⅲm7」の扱い方
次は9-12小節目です。
9小節目のFM7はⅣM7であり、前の話題で「サブドミナント」と解決済みです。
さて10小節目のFm7ですが、本来ならⅣM7となるべきコードがⅣm7になっています。この現象は「サブドミナントマイナー」と表現されて、一時的にKey=CからKey=Cm(=Eb)に転調しています。
Key=Eb(=Cm)から見るとFm7はⅡm7であり、サブドミナントとして “Fドリアン“ を弾くのが律儀なやり方です。しかしKey=Cから見た一時的な転調である「サブドミナントマイナー」の場合においては、その目的として「トニックへのドミナント」と同じ意図で使用されています。
つまりソロを弾く側からすれば、Fm7は「トニックへのドミナント」であるので、G7またはE7(b9)を想定して “Gミクソリディアンb9th = EオルタードP5th“ を使用することが可能となります。
その結果、9-10小節目の “ FM7-Fm7 “ の進行は「サブドミナント → トニックへのドミナント」の構図になるので、コード機能としては “ Ⅱ-Ⅴと同じ意味 “ であったわけです。
その結果、9-10小節目の “ FM7-Fm7 “ の進行は「サブドミナント → トニックへのドミナント」の構図になるので、コード機能としては “ Ⅱ-Ⅴと同じ意味 “ であったわけです。
因みにKey=Eb(=Cm)から “Fm7以外“ のコードで、例えばV7のBb7がKey=CでbⅦ7として使用される場合も、それを「サブドミナントマイナー」と呼び、Key=Cにおける「トニックへのドミナント」として扱います。ドナ・リーではⅣm7の代わりにbⅦ7が配置されるパターンが実は基本形です。
「Ⅲm7」の扱い方
続いて、11-12小節目のEm7-A7(b9)についてです。
一見すると “Ⅱ-Ⅴの形“ ではありますが、直前の10小節にあるFm7は「トニックへの」ドミナントであり、そして11小節目のEm7はそもそもがKey=CにおけるⅢm7なので「トニック」になります。しかし同じトニックであるⅠM7やⅥm7と比較をすると、この “ Ⅲm7 “ の扱いは少し異なります。
ⅠM7/CM7とⅥm7/Am7は、同じフレーズが流用できる “ 表裏一体の関係 ” ですが、Ⅲm7であるEm7からも同様に “ 表裏一体の関係 ” を導き出すと “GM7” という謎の部外者が現れてしまいます。
それに加え、Key=C(=Am)における “ Ⅲ “ といえば「トニックへのドミナント」であるE7(b9)が既に幅を利かせており、立場上では「トニック」であるはずのEm7の存在は、どことなく曖昧です。
このあやふやなⅢm7の解釈として、分数コードのCM9/Eから “C音を省略した” と考えることができます。それは結果としてEm7と同じ構成音です。つまりKey=CにおけるEm7は「事実上のCM7」であり、そのCM7がトニックであることから、Em7も「トニック」であると定義します。つまりソロを弾く側としては、Em7上において「Cイオニアン = Aエオリアン」を使用するわけです。
そして続く12小節目のA7(b9)は、家族同然の「サブドミナントへのドミナント」であるので、一見すると “ Ⅱ-Ⅴ “ に思えたEm7-A7(b9)は、実はⅠ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴの “ Ⅰ-Ⅵ “ と同じ存在であったわけです。
因みにですが、9小節目にあるⅣM7/FM7もⅢm7/Em7と似た境遇です。サブドミナントにおいてはⅡm7/Dm7とⅦm7(b5)/Bm7(b5)が “表裏一体” であり、FM7はDm9/Fから “D音を省略した” と解釈できます。つまりFM7も「事実上のDm7」として、サブドミナントであると定義できます。
残りの4小節も分類する
最後に13-16小節目です。13-14小節目のD7は、3-4小節目と同じブルース風味の「サブドミナント」です。続く15-16小節目のDm7-G7は、Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴの “Ⅱ-Ⅴ“ で「サブドミナント」と「トニックへのドミナント」です。
これにて、ドナ・リーの16小節間における「4つのコード機能」だけでの分類が完了しました。
🐢実際の演奏例を音源で確認
こちらの音源は「ドナ・リー」のコード進行を「4つのコード機能だけ」で弾き分けたものです。クロマチックなどは使用しておらず、下記のスケールの構成音のみで構築されています。
各コード機能に対応するスケール
①:Cイオニアン = Aエオリアン②:AオルタードP5th = Cミクソリディアンb9th
③:Dドリアン = Bロクリアン (= Cイオニアン = Aエオリアン)
④:Gミクソリディアンb9th = EオルタードP5th (= Cイオニアンb13th = Dドリアンb5th)
使用するスケールの選び方
■4つのコード機能を「Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴ」として考えるCイオニアン / AオルタードP5th / Dドリアン / Gミクソリディアンb9th
■4つのコード機能を「ルートC音」として考える
Cイオニアン / Cミクソリディアンb9th / Cイオニアン / Cイオニアンb13th
■4つのコード機能を「ルートA音→D音」で考える
Aエオリアン / AオルタードP5th / Dドリアン / Dドリアンb5th
■ドミナント部分で「オルタードP5th」を使用する
Aエオリアン / AオルタードP5th / Dドリアン / EオルタードP5th
上記4パターン以外においても、結局は異名同音である同じ「4つのスケール」の組み合わせです。トニックとサブドミナントを “同一“ と見なせば「3つのスケール」になります。
マイナスワン(カラオケ)
こちらの音源は、今回の題材に使用したKey=Cに移調された「ドナ・リー」のマイナスワンです。「4つ」または「3つ」のスケールだけで、この複雑なコード進行を弾き切ってみてください。🐢最後に
今回はドナ・リーを題材に「Ⅰ-Ⅵ-Ⅱ-Ⅴのコード機能だけでソロを弾く方法」をご紹介しました。次回の「後編」でも、あと2曲ほどを題材にして「4つのコード機能」での分類例をご紹介します。それに加えて、この手法における「資料的な内容」もお伝えします。
ジャズは「自由な音楽」なので、こんなのもアリ(🐜)じゃないですかね(❗❓)
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